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無線方式博士の電波講座

【第6回】無線回線の工事設計〜フェージングマージンと熱雑音〜
1.無線回線設計

 第5回講座では、QPSKの理論C/N特性、無線中継器の固定劣化などについて説明し、無線回線の雑音配分について説明しました。
今回は図23に示すような総伝送路長150km、無線中継数3のモデル伝送路を想定し、雑音配分をもとにして無線回線設計(以下:工事設計または設計)を行ってみましょう。図23に示す無線中継区間A、B、Cは同一条件とし、本講座では無線中継区間Bを代表区間として工事設計を行います。本無線回線は1対1の送受対称の2波複信方式ですが、本工事設計では図23に示す送信(f1)⇒受信(f1)の無線回線について工事設計を行います。実際にはf1を用いた無線回線とは逆方向のf2を用いた無線回線についても工事設計を行う必要があります。
図23において、送信器(f1)の出力は送受共用器(T/R)(*3)に入力され、フィーダを経て送信側アンテナから電波として送出され50km離れた対向した受信側アンテナで受信されます。受信電力はフィーダと送受共用器(T/R)を経由して受信器に入力されます。
無線回線の工事設計を行う場合、表10に示すような計算シートを作成すると便利です。[ア] 以下、表10に従って工事設計を進めたいと思います。
なお、本講座では「電波法関係審査基準」[イ]に示された数値および計算式等を参考に工事設計を行っていますが、あくまでも検討のためのモデルですので実際の設計を行う場合は混信保護など他の項目について詳細な設計が必要となります。

【説明】
 *3:送受共用器
一般にマイクロ波帯を用いた無線通信では送信・受信に同じアンテナを共用する場合が多い。本講座で説明する2波複信方式では、送信周波数用BPF(Band Pass Filter)、受信周波数用BPFおよびサーキュレータを用いて送受共用器を構成し送信と受信アンテナを共用している。

表10. 工事設計

項目 記号 数値 単位 備考
条件 S1 周波数 f 6.7 GHz 6.57~6.87
S2 全伝送区間距離 D 150 km  
S3 中継数   3    
S4 1中継の区間距離 d 50.0 km 本設計では各区間とも同距離とした
S5 変調方式   QPSK    
S6 伝送容量   13 Mbit/s  
送信 T1 送信電力 Pt 30 dBm  
T2 送受共用器損失 Ldt 3 dB  
T3 フィーダ損失 Lft 5 dB  
T4 アンテナ利得 Gat 42 dBi  
伝搬 P1 伝搬損失 Lp 142.9 dB 20 log((4π ・d ・1000)/(300/(f ・1000)))
(弊社HP「電波関連計算ツール」参照)
P2 伝搬路係数(Q) Q 5.1×10-9   伝搬路種別:平野
平均伝搬路高:100m
P3 レーレーフェージング
発生確率
PR 0.00837   PR=Q ・(f/4)1.2・d3.5
P4 目標回線品質を満足するための所要フェージングマージン Fmr 30.0 dB Fmr=10 log((k ・PR)/(Pir ・d))
k=2
Pir(目標回線瞬断率)=5×10-5/D
P5 標準受信電力 Prn -44.5 dBm -59.5+Fmr/2
受信 R1 アンテナ利得 Gar 42 dBi  
R2 フィーダ損失 Lfr 5 dB  
R3 送受共用器損失 Ldr 3 dB  
R4 定常時受信電力 Pr -44.9 dBm Pt-Ldt-Lft+Gat-Lp+Gar-Lfr-Ldr
Prn±3dB以内
R5 定常時熱雑音C/N C/Nth 55.3 dB Pr-Nth
R6 フェージング時所要熱雑音 C/Ntho 23.2 dB 図21参照(第5回講座)
R7 フェージングマージン Fm 32.1 dB C/Nth-C/Ntho:Fm≧Fmr
R8 所要C/N C/Nr 15.8 dB QPSK(同期検波)、装置固定劣化4dB
BER=1×10-4
R9 受信器熱雑音電力 Nth -100.2 dBm KTBF(=Nth)=-174+69.8+4=-100.2dBm
K:ボルツマン定数、T:温度
KT=10 log(1.38×10-23)+10 log(273+20)
≒-204dBW/Hz=-174dBm/Hz(温度20℃時)
R10 雑音指数 F 4 dB  
R11 等価雑音帯域幅 B 9.5 MHz 10 log(9.5×106)=69.8dB

図23  モデル伝送路の構成例

図23 モデル伝送路の構成例

1. Fmrの算出

無線通信では、受信レベルが時間的に変化することをフェージングと言います。フェージングは送信側アンテナから放射された電波が伝搬路において地形、気象などの影響を受けて複数の経路(パス)を伝搬するため、これらの複数の電波を受信側アンテナで受信すると、振幅と位相の異なる電波が干渉し、受信レベルが変化します。マイクロ波帯固定無線中継ではレーレーフェージング発生確率[ウ]を用いて工事設計を行います。
 このため無線中継装置には、フェージングによる受信電力の変化に対しても安定な受信状態を保ち、目標とする回線品質を満足することが求められます。
 はじめに無線中継区間Bの距離50km、周波数6.7GHz(周波数帯の中心)、平均伝搬路高を100mとした場合の「目標回線品質を満足するための所要フェージングマージン」Fmrを求めます。本講座では目標回線品質は符号誤り率1×〖10〗^(-4)以下です。
 Fmrは下式を用いて求めます。

ここで、
k:年変動による増加係数で2
PR:レーレーフェージング発生確率で下式を用いて求めます

Qは伝搬路係数で、伝搬路は平野、平均伝搬路高は100mの場合、伝搬路係数は「電波法関係審査基準」を参考にQ=5.1×10-9としています。
16.2式にQおよびf=6.7(GHz)、d=50kmを代入すると

PR=0.00837

次に伝送路の目標回線瞬断率Pirは表8から

Pir=5×10-5/D・・・(16.3)

全伝送区間の距離Dは150kmですので

Pir=3.33×10-7/km

目標回線品質を満足するための所要フェージングマージンFmrはk、PR、Pirおよびdを16.1式に代入することにより

Fmr=30dB

が得られます。このFmrを用いて本無線回線設計における標準受信電力Prnは

となり、-44.5dBmが本無線回線の標準受信電力Prnとなります。

2. 定常時受信電力

次に、図23に示した無線中継区間Bの定常時受信電力Prを算出してみましょう。
無線回線を構成する各部の数値を、表10から送信電力(Pt)30dBm、送受共用器損失(送信側:Ldt)3dB、フィーダ損失(Lft)5dB、送信側アンテナ利得(Gat)42dBi、伝搬損失(Lp)142.9dB、受信側アンテナ利得(Gar)42dBi、フィーダ損失(Lfr)5dB、送受共用器損失(受信側:Ldr)3dBとした場合の定常時受信電力Prは

Pr=Pt-Ldt-Lft+Gat-Lp+Gar-Lfr-Ldr(表10_R4項参照)
=30-3-5+42-142.9+42-5-3=-44.9dBm

となります。
 工事設計の結果、定常時受信電力(Pr)は-44.9dBmで、①.1項で求めた標準受信電力(Prn)-44.5dBmに対して±3dBの範囲内となっておりますので工事設計の第一段階は「合格」と考えてよいでしょう。これは図23に示すf2の無線区間も同じ考え方で設計を行うことができます。
 なお、本工事設計ではフィーダに導波管を用いることとします。導波管の配管長はアンテナの設置条件にもよりますが数十メートルから100m程度が想定されます。長尺の可とう導波管の損失は100mあたり約5dBですので本工事設計に適用可能と思われます。[エ]
 またアンテナは、直径2.6mΦ、効率(η)を0.5としたとき、利得は約42dBiとなりますので、本工事設計では直径2.6mΦのアンテナを用いることとします。(参考:アンテナ博士の電波講座;第3回 アンテナの利得

3. フェージングマージン

雑音配分(図21:第5回)にフェージング時の熱雑音(C/Ntho)として23.2dBが配分されています。これはフェージングによって受信電力が低下した場合でもこの配分値を満足するように工事設計を行う必要があります。
 図24は雑音配分の熱雑音(C/Ntho)とフェージングマージンの関係を図示したものです。図24から無線中継Bのフェージングマージンは32.1dBが得られていることがわかります、これは①.1項で算出したFmr=30dBに対して2.1dBのマージンがありますので熱雑音に対する工事設計は「合格」といえます。
 フェージングは伝搬路の気象条件、地理的条件などの影響を受け、確率的に発生しますので、受信電力がFmrの値より大きく低下し、熱雑音の23.2dBを満足しない状態となることがあります。その場合には回線品質目標の符号誤り率1×10-4を維持できなくなり回線断の状態となります。これを「回線瞬断率」で規定しますが、これについては今後機会がありましたら説明したいと思います。
 今回はフェージングマージンと熱雑音について工事設計を行いました。次回は歪雑音、干渉雑音について説明いたします。

図24  熱雑音およびフェージングマージン(Fm)

図24 熱雑音およびフェージングマージン(Fm)

コラム ペンレコーダ

 30年以上昔のことですが、数年間にわたって準ミリ波電波伝搬特性のデータ取得および分析に携わったことがあります。その頃の受信電力データ記録は多チャンネルのペン書きレコーダを用いており、記録用紙交換およびインクの補充などペンレコーダの点検、およびメンテナンスを行いながらデータを記録・取得したものです。ほぼ100%アナログ構成の測定環境でした。
 関東地方では早春の頃降雪が度々あり、雪質は水分を多く含んでいることが多く、その湿雪がアンテナを保護するレドームに着雪すると電波が大きく減衰する場合がありました。着雪した雪の重さを支える限界に達し、レドームから剥がれて落下するとき急激にペンの指示位置が平常時の受信電力に戻る様子を見つつ、レドームから雪の剥がれ落ちる「ドサッ」という音が聞こえたような気がしたものです。

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