第4回
電波について

① アンテナからの放射

前回はアンテナの指向性と利得の関係について述べました。ここで少し戻って、そもそも電波はアンテナからどのように放射されるのか、について見てみましょう。

アンテナへは平行二線、同軸ケーブル、マイクロストリップライン、さらには導波管などにより電波が送られます。
まず図10にテレビのフィーダーのような平行二線で給電されるダイポールアンテナを図示しました。

左端の高周波電源から流れ出す高周波電流が、平行二線を右へ伝わる際に、エネルギーが電界という波になって線路を進み、アンテナから放射されます。

ちょっと注意する必要がありますが、平行二線を伝わる電流がアンテナに流れ込む、とする見方もあり、電流によってできる電界という波が平行二線を含む空間を伝わるという見方もでき、どちらでも同じことです。

ここでは細い矢印で電界を表示しました。電界というのは導体間に電圧がかかった時に生じる空間的な場を指し、磁界とセットになって現れます。

図10では磁界を省略しましたが、この線路内の電界と磁界の様子をさらにくわしく示すと図11のようになっています。電界が二本の電線の間にできるのに対し、磁界は電線のまわりで渦巻くように形成されます。このとき電界と磁界はその向きがその場所場所で直交し、しかもエネルギーの進行方向とも直交します。

図10. 電波の放射

電波のエネルギーはこのように、電線のごく近傍の電磁界の変化という形をとって伝わり、平行二線からアンテナへ移って放射されます。このアンテナとの接続点では状況が急に変わるので、ここで電波がはねかえされないように充分考慮した設計が行われる必要があります。後述しますが、アンテナと給電線のインピーダンスを整合させることにより、反射という損失を抑えてエネルギーを受け渡します。

図11. 平行二線での電磁界

② 電界と磁界

アンテナから放射されると電界と磁界は図12のように波となって空間を伝播します。ちょうど海の波のように伝わって行きます。このように振動が進行方向に垂直な波を“横波”といいます。これに対し音波のように振動が波の進行方向にある波を“縦波”といいます。電波は横波です。

図12. 電界と磁界

この図では垂直方向に電界が、水平方向に磁界が振動する場合を示しました。電界と磁界はさきほど給電線の内部でもみたように直交し、しかも電波の伝播方向、この場合は右方向ですが、これとも直交します。

電界は普通は E(Volt/m) で表わします。電圧だと思えば良いですね。一方、磁界は H(Ampere/m) で表わし、こちらは電流をイメージすれば結構です。図12に示した例では電界が x 方向に偏波し、磁界は y 方向に偏波していますので、この両者の関係は、途中を省きますが、

で表わされます。ここで η(イータ) は空間のインピーダンスで、単位は ohm です。直流回路の電圧と電流の関係が V = R・I で表わされたのと同じ関係です。η(イータ) は媒質が空気であれば次の値をとります。

です。 ε 、 μ(エプシロン)、(ミュー) は空気の誘電率、透磁率で、 です。

周波数、波長と速度の関係

さて図12に示したように電界あるいは磁界は振動しています。これをくどいようですが、電界について書き直すと図13のように表せます。この波がこの形を保って、左から右へ進みます。1地点に留まって電界あるいは磁界の強度を観測しますと、電波の山・谷が通過していくことになります。この山と山(谷と谷)の間隔が“波長” λ(m) です。そしてその1秒間の振動数を“周波数”といい、 f(1/sec) で表わします。振動数と波長をかければ速度、この場合は秒速になりますから、電波の速度は次式で表わされます。

図13. 波長と周波数

経過を省略しますが、さきの ε 、 μ をつかうと次のように表わすことができます。

これが電波の空気中における速度で、光の速度と同じです。
電波の周波数、波長と速度の計算例と速度が他の波とどのような関係にあるのかこれらをまとめて計算例を図14に示しました。なお周波数の単位であるヘルツ (Hz) は 1/sec と表すこともできます。

図14.いろいろな波

波の種類 周波数 波長 速度
携帯電話
(800MHz帯下り)
870MHz = 870×106Hz 345mm 2.998×108 m/sec
衛星放送(受信) 11.8GHz = 11.8×109Hz 25mm 2.998×108 m/sec
光(赤) 450THz = 450×1012Hz 667mm = 667×10-6mm 2.998×108 m/sec
音波(中央ハ) 261Hz 1.3m 340 m/sec

コラム 再びアンテナの利得について

前回のコラムでは、アンテナの利得はほぼアンテナの面積で決まると説明しました。ウソ言え、テレビの八木アンテナはどうなんだ。正面から見た面積は小さいのに利得は高いぞ、と言われそうです。説明しますと、八木アンテナは放射方向に長いですね。あれで実質的な面積を稼いでいるのです。つまり、面積を長さに置き換えていると言えましょうか。こういうアンテナは他にもあります。