第8回
アンテナを共用する

① いろいろな周波数を使う携帯電話システム

第6回で、携帯電話器がいろいろな周波数を使っていることを述べました。一般的な携帯電話システムに着目した場合にはどうでしょうか。ドコモ、KDDI、ソフトバンクが総務省から割当てられている携帯電話システムの周波数を整理すると、図28のようになります。なおこの図では上り回線(携帯→基地局)と下り回線(基地局→携帯)を合わせて一つの帯域として描いてあります。

図ではごく最近に割当てが決まった700MHz帯の周波数も含めましたが、これらの周波数はそれぞれ別のシステムですから個別の扱いが必要です。かといってそれぞれの周波数毎にアンテナを設置することも実際上できなくて、これらを1本のアンテナに同居させることになるので、アンテナの内部はなかなか大変なことになっております。

図28. 携帯各社の周波数

② 800MHz、1.5GHz、2GHz帯の共用アンテナ

この3つの周波数帯は日本国内では、ドコモ、KDDI、ソフトバンクの3社に割当てられております。この3周波数帯共用基地局アンテナの構成例を図29に示しました。

この構成では、アンテナの放射素子は800MHz帯用と1.5GHz/2GHz帯用の素子とに分けられ、低周波数用1素子に対し、高周波数用2素子の割合で配置されております。素子間隔は0.5~0.8λにするのが適当です。そのために高周波数では概ね2倍の素子を配置する必要があって、図のような配置となります。各素子からの波は分配合成器を通っていくつかの素子毎にまとめられ、高周波帯信号はさらに分波器を通って1.5GHz帯と2GHz帯に分けられます。チルト角は各周波数帯毎に別々に制御することが要求されますので、別々の給電線を通って、それぞれの可変移相器に集められ、位相をかけられたのち、アンテナの下部にあるコネクタより外部に出るという順序になります。各移相器の制御は内蔵された制御装置で行われます。

ところで、我が日本は台風が定期的にやってくる国です。台風による強風にアンテナが耐えなければなりません、というか、強風による荷重は建物に大きな負荷を与えますので、受風荷重のなるべく小さなアンテナが求められます。即ちアンテナは円筒形状で、しかもなるべく細く作ることが日本では求められます。諸外国でご覧になる基地局アンテナは図30のように断面が長方形ですが、そこに違いがあります。

図29. 基地局アンテナの内部構成

図30. 欧州の展示会で

③ アンテナを使う上で大切な比帯域幅とVSWR

さて以上述べたようにアンテナでは共用の素子があったりする場合、広い帯域幅が必要となります。ちなみに1.5GHz帯と2GHz帯が共用される場合、その比帯域幅(帯域幅と中心周波数の比)は30%程度になります。

ところで、この「帯幅」ですが、ここではある素子が使用可能な周波数範囲という意味で使っています。いま図31(a)のようにインピーダンスがZ0の線路に、インピーダンスがZlの線路と負荷がつながっているとします。Z0= Zlであれば波は問題なく通過しますが、Z0≠ Zl の場合はこの場所で反射波を生じます。

進行波と反射波とが線路上で重なると、図31(b)のようにあたかも動かない波、即ち「定在波」を生じます。この現象は水の波でも見られますが、この定在波の振幅の最大値と最小値の比を「VSWR」即ちVoltage Standing Wave Ratioと呼び、回路の整合状態を表す目安とします。VSWR=1が反射の無い望ましい状態ですが、なかなかそうは行かなくて、基地局アンテナではVSWR<1.5というのが一般的な合格基準です。

図31(a). 一般的回路

図31(b). 定在波の発生

④ 帯域幅の確保

アンテナ内部の配線や外部のケーブルには通常は50Ωのケーブルが用いられます。またアンテナ素子は一般的には50Ωではないので、50Ωに整合をとってから給電ケーブルにつなぎます。VSWR<1.5という要求に対し、通常のダイポールアンテナでは帯域幅は10%程度ありますが、マイクロストリップアンテナだと0.5%程度しかありません。これをどうやって拡げて使うかはアンテナのエンジニアにとって最大の課題だと言っていい過ぎではありません。

いわゆる対数周期アンテナ等の広帯域アンテナは大きすぎて基地局アンテナには使えません。基地局アンテナでは近接無給電素子というものが広帯域化に有効です。これはダイポールアンテナでは図32(a)のように素子を配置し、マイクロストリップアンテナでは同図(b)のようにおきます。こうした技術で必要な帯域をカバーします。

図32(a). ダイポールアンテナの近接無給電素子

図32(b). マイクロストリップアンテナの近接無給電素子

コラム IMにご注意

IMとはInter Modulation (相互変調)の略です。いわゆる非線形ひずみで、入力と出力が線形(直線的な比例関係)でない時に、信号ひずみが発生します。これは増幅器等では常識的な現象です。ところがアンテナでも、金属と金属の接触点で両者の電気伝導度が違うとか、接触点に異物が混入しているとかのことがあると、非常に低いレベルですがIMが発生します。基地局アンテナは、出力の大きな送信波と非常に低レベルの受信波とで共用するために時としてIMが大問題になります。