ニュースリリース

2023.03.31
ニュースリリース

AGVに搭載した電波センサとSLAMの統合システムを試作

この度、日本電業工作株式会社(本社:東京都千代田区神田鍛冶町3-5-2 KDX鍛冶町ビル6階、代表取締役社長:瀬川純)は株式会社ブレインズ(本社:東京都世田谷区玉川2-27-8 玉川ビジネスパーク4階、代表取締役:堀内岳人)と共同で、総務省受託研究「アクティブ空間無線リソース制御技術に関する研究開発」※1の研究課題:ア-1-(a)-1 伝搬路状況検知・可視化手法」の研究の一環として、AGV(Automatic Guided Vehicle)に搭載したSub 6GHz帯(2.4~6GHz帯)または60GHz帯を対象とした電波センサ※2とSLAMの統合システムを試作しました。

背景

オフィスや工場等のプライベート空間において、今後、無線LAN等の無線トラヒック増加に伴う干渉爆発、ならびに不感地帯の発生による通信品質の低下、通信可能エリアの縮小が危惧されます。本受託研究のテーマとして、伝搬路状況や干渉発生状況に応じてアンテナ指向性や信号の空間多重度を適応的に制御する技術(アクティブアンテナシステム)と、IRS(Intelligent Reflecting Surface)やレピータ等を用いて伝搬路状況を制御する技術とを連携動作させ、通信端末の位置に応じて伝搬路を動的に制御するインテリジェント伝搬路制御技術を確立することがあります。この伝搬路状況の検知・可視化のため、通信端末や干渉源、遮蔽物の位置の把握が必要となります。

概要

● 電波センサ
電波センサはアンテナ、駆動装置、制御装置、スペクトルアナライザから構成されます。測定地点においてアンテナを回転させ、全方向からの到来波の到来方向および強度を測定します。

● LiDAR(Light Detection And Ranging)
LiDARとはレーザ光を照射し、その光が対象物から反射して返ってくるまでの時間から対象物の位置などを測定する機器です。

● SLAM(Simultaneous Localization And Mapping)
SLAMとは自己位置の推定と空間モデルの作成を同時に行う手法です。
空間モデルの作成とはある空間における床・壁・障害物などの位置や大きさといった周辺情報を記した地図(以下、空間モデルと呼ぶ)を作成することであり、本件ではLiDARによって得られる三次元の点群を利用することで空間モデルの作成と自己位置の推定を行いました。
電波センサ、SLAMセンサからそれぞれ取得される到来波データ、空間モデルを元にレイトレース法により伝搬路推定※3を行い、伝搬路や反射点の可視化が可能となります。これらの情報を基に、電波源の位置や遮蔽による不感地帯の推定、およびIRSへ照射するアクティブアンテナのビーム制御、IRSの設置場所による反射方向制御を行い、不感地対策を行います。
電波センサの測定箇所をSLAMによって推定することで到来波データと空間モデルを連携して扱うことができ、レイトレース法による伝搬路推定を円滑に実行できます。また、電波センサとLiDARとSLAM用処理装置を搭載したAGVを自走で移動することにより測定の省力化が図れます。

構成

写真1に試作したAGVに搭載した電波センサとSLAMの統合システムを示します。

写真1 試作した電波センサとSLAMの統合システムを搭載したAGV

写真1 試作した電波センサとSLAMの統合システムを搭載したAGV

AGVの台車の上段、中段、下段にそれぞれ、電波センサ用アンテナと駆動装置、SLAM用処理装置、LiDAR、電波センサ用スペクトルアナライザを配置しました。

SLAM用処理装置と電波センサはTCP/IP通信によりセンサの位置情報、姿勢情報、各センサの測定データの送受を行います。

試作した統合システムの測定データの比較例

図1に弊社オフィスに電波源(Wi-Fi AP)を設置し、統合システムの電波センサで到来波測定を行いました。AGVによる電波源の位置情報から求めた電波源の方向と電波センサによる最大波到来方向を比較したところ、両者の差は0.01°でほぼ同じ方向を示しました。

図1 統合システムのAGVデータと電波センサデータの比較例

図1 統合システムのAGVデータと電波センサデータの比較例

今後の予定

電波センサ、SLAMとも、他の伝搬路状況の検知・可視化方式との組み合わせを考慮し、装置の簡易・小型化、測定方法の簡易化、データの精度向上を目指します。また、フィールド実証実験により、測定場所に適応した測定手法を検討します。今後、本システムを更に発展させ、空間内での電波伝搬の可視化による置局設計等のエンジニアリングの効率化や空間内における電波利用の能率向上を推進させます。

参考文献

※1 総務省 総合通信基盤局 電波部 電波政策課, “アクティブ空間無線リソース制御技術に関する研究開発,” 電波資源拡大のための研究開発 研究開発課題便覧 pp24, 2022年.
※2 大本, “電波センサによるSub 6GHz帯の電波到来方向推定の一検討,” 電子情報通信学会総合大会 B-5-157, 2023年.
※3 芳野他, “2.4 G / 5 GHz帯における屋内DOA推定に基づく送信源位置推定アルゴリズムの検討,” 信学技報 AP2021-193, 2022年.